大判例

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東京高等裁判所 昭和36年(ネ)2529号 判決

被控訴人は、東京都千代田区のあるビルデイング内の一室を事務所として経済雑誌の発行を主宰していたものであり、田尻成芳は、昭和三十四年夏頃宮野宏とともに繊維および鋼材の売買を目的とする営業を始めようとしていたものであるが、田尻は、その頃知人の山田秀三郎のあつせんで、被控訴人の事務所内の二、三の机や椅子を借受け、同所に同居の形で自己の事務所を設け、宮野や山田とともにここに出入りしていた。そのうち、田尻、山田および筧某との間で、田尻、「宮野の右営業を会社組織のものとし、業界に顔のきく被控訴人を名目上の代表取締役社長にしよう。そして仕事の一切は田尻が責任をもつこととするが、山田を代表取締役副社長、田尻および筧をいずれも取締役ということにし、商号は不二秀物産株式会社としよう。宮野には田尻の監督のもとに鋼材の取引を担当させる。」という話合いができ、山田から被控訴人に対し、右会社設立の計画を話すとともに、「田尻を盛りたててやる意味で名目だけでよいから新しく作る会社の社長になつてほしい。」旨依頼したところ、被控訴人は、会社設立の暁には代表取締役に就任してもよいとの意向を示していた。

ところで、右に計画された不二秀物産株式会社は、ついにその設立をみることなく終つたのであるが、宮野は、田尻の指示のもとに鋼材を買付けるべく、昭和三十四年八月下旬頃東京工業株式会社に出向いて、「自分は不二秀物産株式会社の社員で鋼材関係の担当者である。」と名乗つて建築用鋼材の売渡方を要請した。東京工業株式会社にとつては、不二秀物産なる会社は未知の会社であつたため、東京工業株式会社代表取締役清水清は、宮野の申出に応ずることをためらつていたが、宮野から「これが不二秀物産の事務所だ。」といつて被控訴人の前記事務所に案内され、同所で不二秀物産の専務取締役であるとして田尻を紹介されたり、当時不在だつた被控訴人や山田の席を指示して「社長の被控訴人副社長の山田の席はここだ。」などと説明されたりしたほか、その後不二秀物産の取締役で繊維関係の担当者であると名乗る筧や前記田尻の来訪を受けたりしたところから、不二秀物産なる会社は実在の会社であると信じ、同年九月十五日不二秀物産株式会社に売却するつもりで宮野との間に控訴人主張のような内容の鋼材の売買契約をとり結ぶに至つた。

以上のように認められる。(中略)

しかしながら、被控訴人が不二秀物産株式会社の代表取締役ないし社長の肩書を称し、または田尻、山田、筧ないし宮野と共同して鋼材等の取引をしていたという控訴人主張の事実は、上記認定の事実関係だけからしては、いまだこれを認めるわけにはいかず(中略)

かえつて、(証拠)をあわせ考えると、被控訴人は、山田秀三郎の依頼により田尻のため自己の事務所の一部を貸与したほか、田尻または宮野のため若干の業者を打診して同人らの営業が円滑にいくよう多少の助力し、前記の不二秀物産株式会社設立の際は名目上の代表者になつてよいという意向を示したことはあるが、田尻および宮野の営業活動について具体的な指示を与えたとか、営業資金の拠出または利益の配分等について何らかの約束をしたとみられるようなことは何もなく、本件鋼材の取引も被控訴人が全く関知しないうちに行われたものであることが認められる。

なお、(証拠)をあわせ考えると、被控訴人が昭和三十四年九月当時常用していた乗用車は、同月三日不二秀物産株式会社名義で購入されたものであり、その車券も同会社名義であつたこと、右乗用車は田尻、宮野らも使用しており、同車運転のために雇われた運転手も不二秀物産に雇われたものと考えていたことがそれぞれ認められるが、他方当審における被控訴人本人の供述によると、被控訴人は、右自動車の購入およびこれに伴う手続について関与しなかつた(甲第六号証の原本にあたるものを被控訴人が作つたことはない)ので、右自動車が不二秀物産の名義で購入されたなどの事情を知らなかつたことがうかがわれる。かりにそうではなく、被控訴人が右事情を知りながら右乗用車を乗りまわしていたとしても、被控訴人としては、やがては不二秀物産株式会社が設立されるであろうことを予期していた関係から、しいてこれをとがめることなく利用していたにすぎないものと考えることもできるのであるから、右認定のような事実があつたからといつて、ただちに被控訴人が田尻または宮野と共同して前記鉄鋼等の営業に従事していたものと論ずることはできない。

上記のとおりで、被控訴人が田尻その他のものと共同して鋼材の売買取引を行つており、本件売買は被控訴人のためにも締結されたものであるとする控訴人主張の事実は認めることができないから、控訴人の本訴請求は、この点で理由がなく、失当として棄却を免れないものである。

(新村 市川 中田)

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